boys of war

ニューヨークタイムス紙は、南北戦争150年を捉えて様々な特集を組んでいるが、この The boys of war( Far From Home, The opinion Pages, 2011) もその一つである。南北戦争は5年間に実に60万人の戦死者を出した世界最大の戦争となるが、写真が戦場の実相を伝えた最初の近代戦でもある。戦場に累々と横たわる死者たちを活写した写真報道は当時の人々に大変な衝撃を与えた。そしてこの戦争は何万人という少年たちが参加した戦争でもあったのだ。このThe boys of war に登場する少年たちはそのほんの一部であるが、彼等の人生を通して少年兵たちの体験が見える。彼等は史上初の近代戦(速射のきく元込め式の銃と大砲、装甲鋼鉄船や潜水艦の登場)の中で、当時の言葉で soldier’s heart に苦しんで若死にしていく。 soldier’s heart とは戦場のトラウマから立ち直れないまま、その生を早く終えてしまう戦争帰還兵を称した当時の言葉である。少年兵たちは多くが鼓笛隊のドラマーであったが、これも悲劇の原因であった。ドラマーは士気の鼓舞だけでなく、指揮官の命令を伝える重要なシグナル手でもあった。そのため重要な狙撃目標として銃弾に倒れることが多かったのだ。ジョンフォード監督、ジョンウエインとウイリアムホールデン主演の「騎兵隊」では、南部深く進出した北軍騎兵隊が、南部の幼年学校の幼い兵士たちの攻撃に逃げ出す牧歌的なシーンがあったが、実際の戦場はずっと過酷だったのだ。
日本では白虎隊の悲劇が語り伝えられることが多いことが示すようにこのような少年の戦闘への参加はあまり例が無いように思われる。南北戦争への何万人というという少年達の参加はなぜだったのだろう。19世紀、産業革命を迎えた英国では子供達の労働が当たり前であった社会と言える。子供達の人権を無視した過酷な労働環境が社会問題化したほどだった。そしてそれが都市での労働にとどまらず、軍務にも反映されていた社会と捉えることが出来るだろう。
フェートン号のペリュー艦長が軍艦乗務を始めたのはわずか10歳の時である。彼は有名な提督を父に持ち、コネ社会という英海軍の中で前途洋々であったろうが、パウダーモンキーやキャビンボーイとしてウダツの上がらない一生を軍艦で歩き始める少年達も少なくなかった。そういう本国での現象は当然アメリカにも移植されて、少年達が軍務にも殺到したのだ。アメリカ社会の、陰の歴史と言えよう。

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